自分方位研究所

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「野生の呼び声」を読む

ジャック・ロンドン著「野生の呼び声」(THE CALL OF THE WILD 1903) 。120年近く前の、犬を主人公にした冒険小説です。ハリソン・フォード主演にて、2020年2月末に映画が公開され、遅まきながら読んでみました。光文社古典新訳文庫、深町眞理子訳 2007年初版発行版です。
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時は1890年代末期。カナダ・アラスカにて金脈が発見され、ゴールドラッシュに。
冬季は凍った川を橇(そり)を使って移動するため、橇(そり)とそれを引く寒さに強い大型犬が必要になりました。
物語の主人公は、この橇を引く犬で、名前を「バック」といいます。

物語は作者の語りで、橇犬となったバックの心情を、犬だったらこんな風に感じて、考えるのかなぁと思わせる語りで話しを進めていきます。

十頭ほどの犬が橇を引き、どの犬がリーダーで、他の犬をどのように教育していくのかなど、犬社会のしきたりなども詳しく描かれており、この物語を読んでいれば、犬そりレースが、より面白く観ることができるのではないでしょうか。

 

さて物語ですが、お屋敷に飼われていた犬「バック」が、誘拐され、極寒の地で橇を引き、その困難な旅の中で野生の犬として生きる術を学んでいきます。

人間に置き換えるなら、裕福な家庭の子供が一転、大人たちに混じって過酷な労働を強いられるも、奮闘努力し、最後は一人立ちしていく。といったところでしょうか。

社会の荒波に揉まれて立身出世していくという流れ出いくと、犬版どてらい男、「どてらい犬」という副題がぴったりな気もします。

 

 バックは元の飼い主の判事の屋敷から連れ出されたあと、犬のバイヤーから始まり、政府の郵便送達吏(そうたつり)、一般郵便輸送隊、そして一般人の家族、それぞれの橇を引いていきます。ここまでは苦難の連続で、野生のエスキモー犬の大群に襲われたり、また仲間うちでの死闘など、橇を引く他の犬たちとの共同生活が描かれます。
初めての野営では、他の犬の所作を見習い、雪原に穴を掘って寝穴をつくり、その中で冷たい風をやり過ごして眠ることを覚えました。

バックも眠っている間、夢を見るときがあります。体が野生に順応していくからなのか、夢の中で、犬としての太古の記憶が蘇り、原始人(のような)男と行動を共にした頃のことを。

一冬の過酷な橇引きの最後、飢えと疲労で死にかけていたバックを一人の男が救います。この男の元で春から夏を過ごし、体力を回復させてから、この男とその二人の仲間とともに金鉱を捜すべく、新たな冒険に出掛けるのでした。

その後も困難が待ち受け、バックや男は死にそうになりながらも助け合いながら旅を続けます。

それまで幾人かの主人に従ってきたバックでしたが、最後はとうとう、ひとりきりに。そして野生の呼び声に従い、大自然の中で生きていくことになるのでした。

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訳者あとがきによると、以前、日本で紹介されていた「野生の呼び声」は、児童文学的に訳されていたとのことで、本訳では、そうした枠を取り外し、原文を作者ロンドンの意図した意味を考慮しつつ訳していったとのことです。

訳者あとがきとは別に、信岡朝子氏によるロンドンの略歴と本書の解説が掲載されており、「野生の呼び声」が執筆された時代背景や、これからロンドンの著作を読んでいこうとする人の良き案内となっています。

ロンドンは40歳という若さで亡くなっており、WEBで紹介されているロンドンの写真も若いはつらつとしたものばかりです。1876年生まれということですが、今も執筆活動を続けているような錯覚をおぼえます。

動物モノとしては、アーネスト・トンプソン・シートンの、シートン動物記が有名で、私もそのうちのいくつかは読んだことがあったかと思いますが、ジャック・ロンドンについては、今年、この「野生の呼び声」を原作とする映画が公開されるまで知りませんでした。
今回読み終えて、ニコライ・A・ バイコフの「偉大なる王(ワン)」や「樹海に生きる」と同じテイストのような感じを受けました。もう、20年以上も前に読んだきりなので、記憶もあやしいですが。この機会に再度読み返してみたいと思います。

 

余談ですが、夏目漱石の『吾輩は猫である』が発表されたのが1905年なので、「野生の呼び声」は、それより少し前に発表されたことになります。 明治時代でも書く人は書いていたのですね。